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センターの6次化事例
2017年10月27日

『加工所兼販売所を設置し、漁獲した水産物を自ら加工し商品を製造したい』


事例 6


 

 

ヤマブン水産 利豊丸
豊嶋 純さん

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『加工所兼販売所を設置し、漁獲した水産物を自ら加工し商品を製造したい』

       事業者:豊嶋 純 さん (石巻市荻浜)

        漁師:牡蠣養殖、イカナゴ漁、タコ漁、つぶ貝漁

     主な販売先:漁協共販、市場出荷、直接販売

6次産業化への取組:加工所兼販売所の設置による水産物の加工品製造

    取組後の成果:加工場兼販売所の建設で新商品開発のための試作や、
                          加工商品の直接販売が行えるようになる。

 

※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを、以下より「6次化センター」と表記いたします。

 

 


6次化センターへのご相談のきっかけ


 

石巻市内で塾講師をしていたが、東日本大震災をきっかけに牡蠣漁師に転身し、荻浜の水産物PRに自ら立ち上がる

漁師を継ぐまでは、石巻市内で塾の講師をしていました。

本音を言うと、東日本大震災を経験するまでは、家業の牡蠣漁師を継ぐということを考えたことは特にありませんでした。

しかし、震災後の浜の壊滅的な様子や両親の高齢化を目の当たりにして、今後も家業を存続させるには私が漁師として働くしかないと思い、転身を決意しました。

漁師の仕事は重労働だと聞かされていたため覚悟はしていましたが、1日に何百もの牡蠣の殻剥きに追われる日々は、やはり精神的にきついと感じざるを得ませんでした。

大変な作業をなんとかやりきったとしても、漁協共販や市場出荷する牡蠣は加工品の原料になることが多いため大量の出荷を要求されたり、全ての牡蠣が同じように育ってくれるわけではないために価格の変動が大きかったりといった不確定要素が多く、労働に見合った手応えを感じることはありませんでした。

私は、荻浜の牡蠣を直接消費者へ販売し、その反応を体感したいと日々考えていましたが、その手段がありませんでした。

このままでは荻浜の牡蠣の魅力を十分に伝えられないまま漁師を続けることになると思い、何か新しい仕組みづくりはできないかと6次化センターに相談しました。

「荻浜の様子」
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6次化センターへの支援希望内容


 

牡蠣の新しい販売体制の構築と、牡蠣を活用した加工食品を開発したい

豊嶋さんの相談内容は、

①漁獲する水産物の新たな販売体制や事業拡大策の構築をしたい

②販売体制構築に必要な施設整備に活用できる補助制度を活用したい

③牡蠣を活用した加工食品の開発を行いたい

ということでした。

 


豊嶋さんと6次化センターの取り組み内容


 

加工所兼販売所の設置と、牡蠣を活用した加工品の開発

漁協共販や市場出荷以外の販路確保には、自らが消費者に直接販売を行うことが必要だと考えました

直接販売をするにあたっては、水産物そのものをパッケージングして販売するだけでなく、加工品としても販売できるようになれば、出荷規格に合わなかった水産物でも付加価値を付けることができると考え、加工所兼販売所の設置を計画しました。

販売拠点となる施設の設置に活用できる補助制度へ申請するため、6次化センターの方に総合化事業計画(*1の作成と、石巻市6次産業化・地産地消推進助成金(*2)の申請書作成をサポートしていただきました。

補助制度の申請以外にも、直接販売で提供する加工品の候補についてもアドバイスをいただきました。

今後も、継続して既存商品の改良や新商品開発の相談を行い荻浜地区の魚介類のブランディングを図っていきたいです。

*1「総合化事業計画」とは
  農林水産物等の生産・加工・販売を一体的に行う事業活動を「総合化事業」と 
  いいます。農林漁業者等が経営の改善を図るために、事業計画を作成し農林
  水産大臣に申請し、認定を受けると様々な支援が受けられます。

*2「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金」とは
  石巻市では、地域資源の高付加価値化を図るため、1次産業・2次産業・3次産
  業を営む事業者がネットワークを形成して取り組む事業に対し助成金を交付します。

  対象事業は、①新商品開発、②販路開拓、③施設整備 です。

  ③施設整備については、総合化事業計画の認定を受ける必要があります。


加工品を製造している様子
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牡蠣の生育を妨げる付着物を牡蠣殻から取り除く作業
①

 

 


6次産業化に取り組んだ成果


 

加工所兼販売所の設置で、加工品の製造を柔軟に行えるようになった

加工所兼販売所の設置により、漁のない日や催事等に向けて臨機応変に加工品の製造を行えるようになったことが、新たな販路確保の手段となりました。

また、自ら加工品の試作やレシピ考案をできるようになったので、その分加工の委託コスト等の削減にも繋がりました

今年は、石巻市で「Reborn-Art Festival 2017」が開催されたのに合わせて、加工所で調理した食品を販売所で直接販売することもできました。

今後もイベント出店等で円滑に直接販売を行えるよう経験を重ねていきたいと考えています。

この加工品の製造は、私一人で行えることではありません。

地元の若い世代の方やお母さんたちが従業員として協力してくれるからこそできるのです。

この活動が地域の雇用促進や活性化に少しでも貢献できるよう、今後も続けていきたいと考えています。

加工所兼販売所の設置で加工品製造を容易に行えるようになった
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魚介類の直接販売ができるようになり、漁業経営そのものに付加価値を付けることができた

6次化センターへ相談した当時は、養殖している牡蠣だけでなく、他の魚介類の販売先の開拓も課題となっていました。

漁協共販や市場出荷では、自ら価格設定が行えないため市場価格に左右され収益に繋がりにくかったのです。

加工所で消費者のニーズに合わせた内容量でパッケージングをすれば、卸売販売などに繋げることが可能になります

また、現在加工所で惣菜等の製造をして販売を行っていますので、私達の新しい事業として漁業の経営にも付加価値を付けることができました

 


6次産業化への取り組みで苦労する点


 

加工した魚介類を直接販売できるようになった、独自の製造工程のマニュアル化に苦労した

加工した魚介類を直接販売できるようになったことで、独自の製造工程を考案するようになりました。

加工所の設置で繰り返し試作を行うことができるようになったため、地元のお母さんたちと一緒にレシピ作りに励みました。

お母さんたちは、長年料理を作ってきた方々ですし、味に関して豊富な知識を持っているため、たくさんのアイディアをいただくことができます。

それが利点となる一方で、商品として提供する以上味や品質を統一する必要があるため、使用する調味料の種類や分量のマニュアル化に苦労しました。

本当に料理が大好きな方たちですので、たくさんの知恵を商品に集約させたいという気持ちが試作を行う度に伝わってきます。

そうした「地元の漁師が育てた魚介類」を「地元のお母さんたちが手作りした」という温かい思いを、これからも多くの方に伝えられるような商品づくりを心がけたいと思います。

 

 

新たな販売体制づくりが今後の課題

現在、新たな販売体制づくりを視野に入れた取り組みを進めています。

石巻を訪れた方に直接販売を行うことも大事ですが、遠方にいる方にも荻浜の牡蠣を知ってもらうためには、発注システムの構築が必要だと考えました。

システムを構築するためには、発注方法や手段、発送方法、注文・顧客管理のための帳簿の作成などを行う必要がありますが、1次生産者として牡蠣漁を疎かには出来ませんし、牡蠣の殻剥きにも人手の確保が難しい中、どこまで手がけられるのかが課題となっています。

また、発注システム等の仕組みについて、他の事業者の方の多くの事例を学ばなくてはならないため、時間が足りないのが現状です。

 


販売商品への想い・こだわり


 

商品開発・改良に欠かせないのは、消費者のダイレクトな意見

加工所兼販売所の設置にあたって一番こだわったことは、消費者の顔が見えることです。

直接販売という手段を選択することで、お客さんの反応を直接感じることができます。

漁協共販や市場出荷だけでは物とお金のやり取りしか発生しないため、消費者の意見を聞くことは困難でした。

私が養殖した牡蠣や魚介類の味に対する消費者の意見をダイレクトに受け取れるようになれば、今後の新商品開発や改良のヒントになります。

こうした販売方法は、農林水産物生産者のモチベーションの維持にも繋がりますので、今後も積極的に消費者の意見に耳を傾けたいと考えています。

宮城県漁業協同組合石巻総合支所青年部の皆さん
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作業中の豊嶋純さん
③修正

 

 


6次産業化を検討している方々に伝えたいこと


 

石巻にはもう6次産業化は必要ないと言われるくらい、6次産業化の取り組みが盛んになれば、地域活性化の動きが広く浸透したことになる

これから6次産業化に取り組みたい方に伝えたいことは、まずは6次化センターなどの支援機関に相談をして欲しいということです。

6次産業化は、我々1次産業者にとって収益増加のための手段の一つです。

この部分だけを聞いてしまうと、少々生々しい表現に捉えられてしまうかもしれません。

ですが、この手段があるからこそ、我々1次産業者が自分たちの生産する農林水産物に新たな可能性を見出せるし、付加価値向上のために重い腰を上げることができるのだと思うのです。

6次化センターに相談し、補助制度の活用のために事業計画などの申請を行ったからこそ、加工所の設置を無事に完了することができました。

事業計画を申請したからには、その計画通りに活動しなければならないため、良い刺激になりました。

また、我々1次産業者が生産した農林水産物を、2次産業者の方に協力してもらい加工を行うことも6次産業化にあたりますので、そうした他産業との連携にもぜひ6次化センターを活用し、石巻市の産業全体が盛り上がって欲しいと考えています。

もう石巻市には6次産業化は必要ないと言われるくらい、6次化センターをたくさんの方が活用し、事業拡大に挑戦してほしいのです。それがこの石巻市全体の活性化に繋がるのだと思います。

 

 

 

 

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